- レッドカーペットを二人で歩いた後――。
- マネージャー
- 「ちょっと!! あんな場所で熱愛報道なんて、何考えているのラウル!!」
- 私とラウルは、マネージャーさんに全力で怒られていた。
事務所にいる間も、あちこちからひっきりなしに電話の音がする。
問い合わせの連絡が来ているのだ。
私たちが、勝手に『恋人宣言』をしてしまったから。
机の下で手を握り合いながら、私たちは、一緒にマネージャーさんに謝った。
***
- マネージャー
- 「とにかく、次の仕事が来たわ。また恋愛映画なの。
きっと女性ファンも増えるわ。だからしばらく結婚は控えて頂戴」
- ラウル・アコニット
- 「ええ!? また恋愛映画!?
そろそろまたアクション映画に出られると思ったのに……」
- マネージャー
- 「この間の『ラクダに乗った女神Part2』を見てわざわざ監督が来てくれたのよ」
- マネージャー
- 「監督はハワード。しかも主演女優は、人気急上昇中のあのエミリア・ターナーよ。
この案件を断る理由はないわ」
- ヒロイン
- (ハワードって、あのニュートン・コードの!?
しかもエミリアって、 最近ドラマで人気になった――)
- これは、大きな話なのは間違いない。
断るなんて本当に、もったいない。
私でも分かっている。でも――。
- ラウル・アコニット
- 「でも……恋愛映画って事はキスシーンとか……あるんだよね?」
- マネージャー
- 「ええ、あるでしょうね。キスシーンも、ベッドシーンも」
- ラウル・アコニット
- 「なら悪いけど、断るよ。オレ、彼女以外とキスしたくないし」
- ヒロイン
- 「ラウル――」
- マネージャー
- 「待ちなさいラウル、何言ってるの。貴方はプロの俳優でしょ。
仕事とプライベートぐらい切り分けて考えなさいよ」
- ラウル・アコニット
- 「相手の女優が彼女なら、考えるけど……」
- マネージャー
- 「あのねえ、彼女はまだ新人よ。それに、もう映画に出るつもりはないんでしょ?」
- ヒロイン
- 「え、ええ。まあ……」
- というか『ラクダに乗った女神Part2』に出られたのもまぐれみたいなものだ。
監督からは、Part3を作る時はまた出てくれ、と言って貰えているけれど、本業にしようとはさすがに思えなかった。
演技は難しいし、他の役柄を出来る自信はない。
何よりCC.での仕事が大好きなのだ。
私は、キューピットだったから。
人と人の恋を応援するのが、今のところ一番やりたい仕事だった。
- マネージャー
- 「とにかく、めったに無いチャンスだもの。私の方で話は進めておきますから――」
- ラウル・アコニット
- 「嫌だ。オレ、そんな演技出来ないよ!」
- マネージャー
- 「前回と同じようにすればいいの」
- ラウル・アコニット
- 「無理だよー! どうやってたか、思い出せないし……」
- マネージャー
- 「でも恋をする前は簡単に キスシーンだって出来たでしょ?」
- ラウル・アコニット
- 「それは、そうかもしれないけど……。でも、だからこそこれからは誠実に生きるって決めたんだ」
- ラウル・アコニット
- 「オレは、彼女を大切にしたい。だから、他の女優とのラブシーンがある映画には出ないよ」
- マネージャー
- 「ラウル!? 何言ってるのよ、ヒット映画のほとんどはそういうシーンがあるじゃない――」
- ラウル・アコニット
- 「ない映画もあるよ! ――ほら、行こ!」
- ヒロイン
- 「ラウル!?」
- ラウルが私の手を引っ張って、事務所を飛び出していく。
大人気シリウッド俳優ラウル・アコニットの迎えた、初めての反抗期。
波乱の幕開けの予感がしていた――。