ピーター・フラージュ
「――お前は、私を、何だと思っているのだ……?
そんなに、私は男らしくないか」
ヒロイン
「そういうわけじゃ、ないけれど……」
濡れたままの毛先から、床に水滴が落ちていく。
気まずい沈黙の中で、私は俯いた。
男らしくない、なんて思っていたつもりはなかった。
でも、彼が怒る理由が分かってしまう気がして、私は返答に詰まる。
服を着ろと、彼に怒られたばかりだった。
それなのに私は、ルームウェアを取りに行く為に無遠慮にまた、リビングに出てきてしまったのだ。
彼の気持ちも、考えずに。
ピーター・フラージュ
「お前の気持ちは、分かる。
……私が、頼りないのがいけないのだ」
ピーター・フラージュ
「だが――、それだとしても、お前はあまりに、無防備すぎる……」
有無を言わせない手が、私を抱き寄せ、そのまま、唇を奪われた。
ピーター・フラージュ
「ん……」
ヒロイン
「んっ……!」
触れた体は、ひんやりとしていた。
けれど、私の手首を掴む手は、お風呂上がりの私の肌よりも、ずっと熱い。
逃さないというように私を捕まえて、彼が私にキスをする。
最近していたキスとは、まるで違った。
艶めかしささえ感じる口づけに、私は全く身動きが取れなくなる。
謝る言葉を懸命に探したけれど、彼に強く抱きすくめられて、言葉さえ、うまく紡げなくなった。
ピーター・フラージュ
「私は……、私とて、男だ。
……お前を愛する、一人の男なのだ」
ピーター・フラージュ
「お前は知らないかもしれぬが……。
――私は、お前を……お前以上に、愛している」
ヒロイン
「私以上に、って……。
私だって、ピーターが好き――」
続きの言葉は、言えなかった。
急に耳を噛まれたからだ。
甘く噛まれて、私は息を呑む。
でもそれだけで終わらなかった。
彼が私の耳を、舌先でちろりと舐める。
ちーちゃんの牙じゃない。
ピーターの舌が、そこにあった。
ヒロイン
「っ……」
初めて彼の舌の感触を知った気がして、私は思わず声を上げそうになった。
でも、気まずさが私の唇を閉ざす。
ピーター・フラージュ
「ん……。……私は、友では、ない――。
……お前の、夫だ」
ヒロイン
「分かってるわ……」
ピーター・フラージュ
「いや。分かっていない。
……お前は、分かっていないのだ」