「ん~……まだ、時間はだいじょうぶ……。
だから、ね。君も一緒に寝よう……?もう少しだけ……君を抱いて眠りたい……」
夢か現か曖昧な感覚の中で、彼女の身体を抱きしめる。優しく宥めるような声が耳に響いた気がするけれど、まどろみを心地よく深めるだけだった。
「ちょ……ちょっと。寝ぼけてるわね……?」
「んー……? うん……へいき……寝ぼけてませーん……」
「完全に寝ぼけてるじゃない……。ダメよ、もう起きなきゃ遅刻しちゃうわ」
頬を軽くつねられる感覚に、ぼやけていた意識が覚醒しはじめる。寝起きの悪い自分にしては、いつもより格段に早い目覚めだ。ひとえに、頬に触れる彼女の滑らかな指の感触のせいと言っても差し支えない。
「はーい……起きました……うぅ……でも、やっぱりもうちょっとだけ……」
「もう……じゃあ、あと少しだけね」
呆れを含んだ溜息と、ふわりと彼女の頭が胸元に近づく感覚。まだ寝ぼけた頭の隅で、ああ、もったいない、と思った。せっかくこんなに近く愛しい人がいるのに、朝の恋人らしいひとときを楽しめないなんて。
けれど、彼女の髪の花のような香りや、柔らかい身体の温かさ。優しいものばかりに包まれて、うとうとと勝手に瞼が閉じていく。
「起きたら……、……させて……」
自分がなにか呟いた気もするが、なにを言ったか判別もつかないまま再び夢に堕ちた。
こんな幸せに包まれて眠ったら、きっとまた彼女の夢を見るだろう。