浮遊感があり、そこから落ちるまでは一瞬。

気がつくと貞吉君の腕が、
私の身体を力強く抱きとめてくれていた。

飯山貞吉
「なんともないですか?」
佐野ゆずりは
「う、うん……ありがとう。
貞吉君こそ、大丈夫……?」
飯山貞吉
「これくらいなら問題ないです。
貴方も知ってのとおり、毎日鍛えてるんで」

確かに私を支える貞吉君の腕は、
しっかりと鍛え上げられていた。

筋肉質な感触が、着物の上からも伝わってくる。

佐野ゆずりは
(逞しい腕……
貞吉君も『男の人』なんだ……)
飯山貞吉
「ゆずりはさん?
ぼんやりして、どうかしました?」

貞吉君が、じっと顔を見下ろしてくる。
なんだか胸の鼓動が速く、落ち着かない。

飯山貞吉
「……あ。もしかして怖かった、ですか?」
飯山貞吉
「だとしたら、すみません。
無茶させたみたいで……」

……ああ、そうか。
私は木から飛び下りるのが怖かったんだ。

この胸の高鳴りはきっと、その余韻だろう。

佐野ゆずりは
「ううん、大丈夫。
正直に言うと少し怖かったけど……」
佐野ゆずりは
「貞吉君を信じていたから」
飯山貞吉
「……そうですか、それはどうも」