- 山瀬大蔵
- 「秋月さん。連れてきましたー」
- 山瀬大蔵
- 「秋月さーん?」
声をかけるが、答えはない。
- 佐野ゆずりは
- 「留守でしょうか……?」
- 山瀬大蔵
- 「いんや。
……どうせまた熱中しているんだろう」」
- 山瀬大蔵
- 「開けますよー? 声掛けましたからね」
大蔵さんは返事を待たずに戸を開ける。
そこにいたのは――
たくさんの書物に囲まれた男の人だった。
難しそうな本に視線を落としながら
その表情はどこか楽しげでもある。
周囲の物音が聞こえないほどの集中力で
書物の文字を追いかけている。
- 山瀬大蔵
- 「秋月さん。連れてきました」
- 秋月栄次郎
- 「ん……? ああ! 大蔵殿。
申し訳ありません」
- 秋月栄次郎
- 「こちらの方が例の……?」
- 山瀬大蔵
- 「はい。紹介します」
- 佐野ゆずりは
- 「佐野ゆずりはです。
はじめまして……」
- 秋月栄次郎
- 「はじめまして。私は秋月栄次郎と申します」
穏やかに微笑む。
なんだかこちらをほっとさせるような、
暖かい空気感をまとった人だ。
- 山瀬大蔵
- 「秋月さんは公用人として働いてる。
よその藩と交流するとか、
何か交渉ごとがあれば大抵この人の出番だ」