佐野ゆずりは
(気づかなかった……)

姿を現したのはふたりの男。

そのうちひとりは、私も知っている人物だった。

佐野ゆずりは
「与七郎さん……!?
帰ってきていたんですね」
山瀬大蔵
「久しいな、ゆずりは。
五年ぶりに姿を見たと思ったらこんな展開で驚いたよ」
山瀬大蔵
「裸の男が女性を押し倒す……なんて
まさか白昼堂々の逢瀬かと興味を引かれてね」
山瀬大蔵
「よく見てみたら、どちらも知ってる人物ときた。
しかしどうやら事態は想像外に剣呑だ」
山瀬大蔵
「立てる?」
佐野ゆずりは
「はい、ありがとうございます……」
山瀬大蔵
「ん、ならよかった。
怪我もないみたいだし」

差し伸べられた手を取ると、
与七郎さんがぐいっと力強く引き起こしてくれた。

男女の逢瀬を盗み見しようという動機は不純だけれど
結果として与七郎さんの好奇心に助けられた。

知っている人が間に入ってくれて
ひとまずほっとする。

佐野ゆずりは
「助かりました。
ありがとうございます、与七郎さん」
山瀬大蔵
「おっと、今は大蔵だ」
佐野ゆずりは
「そうでした、大蔵様」