弾丸は急所を狙い通りに貫いて、
確実に命を奪った。

佐野ゆずりは
(私が放った弾丸が、彼を殺した)

脚が震え、身体を支えられずにへたりこんだ。

佐野ゆずりは
(座り込んでる場合じゃない。
立って、走らなきゃ。早く追いつくんだ)

もう一度立とうと思うのに
体に力を入れる方法を忘れてしまったみたいだった。

ここでじっとしていたら狙い撃ちの的だ。
立ち上がらないと。

焦るとますます
身体の動かし方が分からなくなってしまう。

神崎宗十郎
「ゆずりは」

名を呼ぶ声に意識を引かれる。

すぐに私の頭に、
そっと触れるものがあった。

神崎さんの手のひらが一瞬、私の頭に重なって
すぐに離れていく。

神崎宗十郎
「よくやった。腕は確からしいな」
神崎宗十郎
「お前が撃たなきゃ仲間が死んでいた」
神崎宗十郎
「守ったんだ、お前が」
佐野ゆずりは
(私が、守った……)

神崎さんの声に
にわかに力を取り戻す。

神崎宗十郎
「立て。行くぞ」

親切に支え起こしてくれることはない。

でも、言葉だけで十分だった。

私がもう一度立ちあがった頃には
神崎さんの背中はもう遠ざかっている。