移動中、大蔵さんは少しも喋らない。

納得しかねることを
身の内で堪えているように。

佐野ゆずりは
「……せっかく準備をしたのに
引き返すなんて悔しいですね」

出陣する前から現地へ足を運んで
入念な下調べをしていた。

それなのに、
いざ出陣してから呼び戻されてしまうなんて。

山瀬大蔵
「しかたないさ。
誰かがやらなきゃ遅かれ早かれ破綻してた」
山瀬大蔵
「こんな仕事さっさと終わらせて
一日でも早く日光口へ戻るよ」

いつもと同じ柔らかい口調だけれど
その響きはどこか冷淡だ。

佐野ゆずりは
(腹立ちは収まってないみたい……?)

振り返ってみると、
大蔵さんは見たことのない冷たい表情をしていた。
だけど、すぐに私の視線に気づいて
いつものにこにこした表情に戻る。

山瀬大蔵
「ん? どうした」
佐野ゆずりは
「いえ、なんでもないです……!」

見てはいけないものを見たような心地になって、
慌てて前を向いた。