岡本三郎
「顔が真っ青だ。お前、撃てないんじゃないのか」
佐野ゆずりは
「三郎……」

砂埃にまみれた顔には
誰のものか、血の汚れもついている。

大きな傷は負っていないから、ほっとして力が抜けた。

岡本三郎
「……今からでも帰れ。
安全な場所まで戻って、会津に帰るんだ」
佐野ゆずりは
「みんなを置いて、そんなことできない」
岡本三郎
「戦えないやつがいても足手まといだろ!」
岡本三郎
「お前は逃げろ。
女なんだから、無茶するな」
佐野ゆずりは
「でもっ……」

ふと、三郎の手から震えが伝わってきた。

岡本三郎
「……頼む。逃げてくれ」

懇願する声に、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。

佐野ゆずりは
(逃げてもいい――?)

――そうなのかもしれない。

でも、私は白虎様に力をもらった。
兄上の銃でずっと稽古してきた。

この力があれば、戦うことができる。
そう信じてここまできた。

銃を持たずに突撃した藩兵は
銃弾の雨に身を晒して倒れていった。

佐野ゆずりは
(……兄上も同じように、
逃げなかったはず)