風が吹いて木々がそよぎ、
木漏れ日がちらつく。

髪がなびいて、少年はふと木を見上げて微笑んだ。

佐野ゆずりは
(綺麗な子だな……)

背筋がぴんと伸びている様子から、
きっと日新館での勉強に
日々真面目に打ち込んでいるんだろうなと窺えた。

つい目を奪われていると――

石谷虎之助
「あ……」

少年と目が合った。
ぺこりと会釈をしあう。

もしかして――という予感が膨らんでいく。

先に口を開いたのは彼のほうだった。

石谷虎之助
「大蔵様のご友人のかたですか?
私は、案内を命じられた石谷虎之助です」
石谷虎之助
「……どうしました?」
佐野ゆずりは
「あっ、いえ。えっと――」

あまりに無遠慮に見つめてしまったことに
今さらながらに気づいて焦る。

佐野ゆずりは
「綺麗だったので……」

つい、思ったままのことを伝えてしまう。

すると、石谷君は朗らかに微笑んだ。

石谷虎之助
「ありがとうございます!
少しでも綺麗なほうが気持ちいいと思って」

箒を握り直して姿勢を正す。

佐野ゆずりは
(掃除の話だと思ってくれたみたい……?)