-
継信の手が、すっと私に伸ばされた。
- 源 義経
- 「あ……」
- 佐藤 継信
- 「貴方と二人で佇んでいるうち…… 私の中に矛盾が生まれてしまいました」
- 源 義経
- 「矛盾?」
- 佐藤 継信
- 「自由になってほしいという気持ちは変わりません」
- 佐藤 継信
- 「義経様にはありのまま……女人として、柔らかな心を押し殺すことなく生きて頂きたい」
- 佐藤 継信
- 「しかし……それが叶う時は、周囲の者たち全てが義経様の真実を知る時です」
- 佐藤 継信
- 「多くの者が貴方の魅力と立場に引き寄せられ、その存在を求めるでしょう。
……仕方のないことです」 - 佐藤 継信
- 「ですが私には……。きっとそれが、耐えられません」
- 佐藤 継信
- 「そうなるくらいならば、いっそ今のままがいい」
- 佐藤 継信
- 「艶やかな珊瑚のかんざしよりも、白い花飾りが似合う貴方のまま」
- 佐藤 継信
- 「この野原のように、誰にもその美しさを知られず、手に触れられないままでいてほしい……」
- 佐藤 継信
- 「貴方のこの表情を見ることが出来るのも、触れられるのも、私だけであってほしい。
……そんな願いを抱いてしまいました」 - 源 義経
- (継信のこんな顔は初めてだ。吸い込まれてしまいそうで、目を逸らせない)
儚い花びらを辿るような手つきで彼は私の頬に触れる。
彼に触れられた箇所が燃えるように熱い。
うるさく鳴り響く音を鎮めようと、己の胸を押さえる。
こちらの激しい動揺を感じ取ったのだろう。
継信は眉を下げて微笑むと、私からすっと身を引いた。