Story

第一夜 ヨーロピアン・ナイト

ルーガン王国の第一王子――“ヴィンス・ルーガン”

苛烈な冷酷さと蜂のような鋭利さを持つ第一王子は、
領土拡大のためなら手段を選ばないことで有名だった。

今回の『世界次世代指導者会議』が終われば、
軍国主義国家と名高いルーガン王国の国王に即位するという。
彼は、会議を前哨戦とするべく気を引き締めていた。
そんなヴィンス王子とは真逆に、羽を伸ばす気満々の側近。二人は共にシャナーサ王国へやってくる。

――会議2日目の朝。

前日夜に催された歓迎パーティーで飲みすぎた為か、
ヴィンス王子の目覚めは、爽快とはいい難いものだった。
だが、その気怠さもあっという間に吹き飛ぶ。
いつの間にか見知らぬ女が部屋の中に入ってきていたからだ。

「勝手に女を私の部屋に入れるな。不愉快だ」
睨みつけながらも、ヴィンス王子は自身に訪れた変化に戸惑っていた。
喉の渇きにも似た抗いようのない欲望が、自らの理性を蝕んでいくのを感じたから。

――時は遡って会議開催の1週間前。

《ショーサロン・カマル》にとある客が訪れた。
“舞妖妃”の本来の姿。密偵としての彼女に仕事を依頼するために。
攫われた妹を助けて欲しい。それが今回のミッションだった。

依頼人は“ロラン・クライデル”――亡國の第三王子だ。

「……ねえ。ようやく、君を助けることができるよ……」
女を愛したことがないターゲットと、女の愛し方が歪んでいるクライアントとの
ヨーロピアン・トライアングル

渇愛の生贄に壊れるのは誰か――